リヒトの携帯が着信音を鳴らした。


リヒトは無反応のまま歌詞カードを見ていたけど、4コール目で、面倒そうに目を上げた。




「………なんだよ?」



無愛想に電話をとり、不機嫌な声をあげるリヒト。



でも、私は知っている。


どんなに素っ気なくて冷たくても、リヒトの声は、電話の向こうの女にとっては、蕩けるほどに甘く聞こえるのだ。


だって、私もそうだから。



たとえ電話ごしでも、リヒトのその声が自分だけに向けられるという事実だけで、世界は甘美になる。


リヒトの魅力に一度でも捕らわれたら、もう二度とリヒトから離れられない。


用無しだと捨てられるまで。

用無しだと捨てられても。


どこまでいっても、リヒトの魅力からは逃れられない。



―――悪魔みたいな男。




「………は? 今夜? なんだよ、いきなり」



リヒトが苛々した声で、電話の向こうの女に言う。


それでも、少し掠れた声は、どうしようもなく魅惑的だ。



「つーか、呼んでもないのに来んなよ。用があるときは俺のほうから呼ぶっつってんだろ」



リヒトは憮然と言い放ち、それきり電話を切った。


携帯を床に放り出す。

そしてまた、音楽の世界に没頭した。