ドアベルが鳴り、入り口を見ると、お客さんがひとり入ってきた。


ルイは話し中だし、ユカは休憩に入っているので、自分が接客をしようと水道の蛇口をしめたとき、ルイがこちらを向いた。



「レイラさん、いいですよ、俺が行きます。それ、続けてください」



私は笑みを浮かべて頷いた。


ルイは吉田さんたちに会釈をして、キッチンカウンターの前に立った。


ウォーターグラスを左手で支え、右手に持ったアイストングでストッカーの中の氷をつまんでからんと入れると、

ピッチャーの水を注いでトレイにのせ、奥の席に座ったお客さんのもとへと歩いていった。



流れるように軽やかな手際のよさに、私は感嘆する。


水をつぐたびにこぼしていた三ヶ月前を思うと、まるで別人だ。



『レイラさんに認めてもらいたくて頑張った』



ふいに朝のルイの言葉を思い出して、私は慌てて頭の中から追い払った。



ルイがお客さんの前にグラスを置き、オーダーをとっている。


いつもブレンド珈琲を頼むお客さんなので、先に準備をしておこうと私はホット用の珈琲カップを手にとり、熱湯を注いでカップを温めておいて、ルイが戻ってくるのを待った。



「三番さん、ホットひとつです」


「はい」



ルイの告げるオーダーを聞きながら珈琲に注いで、ルイが伝票を置くのと同時にカップをカウンターに置く。

ルイが小さな八重歯を覗かせてにっこりと笑った。



「早い! さすがレイラさん」



屈託のない笑顔が、私には眩しかった。