お母さんだけは、私に恋人がいることをなんとなく勘づいていて、それでも何も言わずにいてくれた。


せっかく大学生になったんだから、勉強だけじゃなくてサークルも友だち付き合いも恋愛も、大いに楽しみなさい、と言ってくれた。



それがまさかこんな結果になってしまうなんて、お母さんには思いも寄らなかっただろうな。


そう思うと申し訳なくて仕方がない。



お母さんは、今この世界でたった一人だけ、私の誕生日を忘れずに祝ってくれる人なのに。


それでも、不誠実で不道徳で恩知らずな私は、故郷より両親より、リヒトのことが大事だった。



店に戻って控え室に入り、コートを脱いでハンガーにかけ、コンビニの袋から弁当を出して机に置く。



カルボナーラはチーズクリームが冷えて凝り固まり、ひどくまずそうだった。


外に出ている間に冷え切ってしまった指で、プラスチックのフォークをぎこちなく回し、パスタをすくい、黙々と口に運ぶ。



私はゴムを噛むような心地で、お腹を膨らませるためだけに昼食をとった。