私の沈黙から答えを悟ったのか、お母さんは三度目のため息を洩らした。


それから、重い空気を振り払うように声色を変える。



『玲羅、今日、誕生日ね』



私は「うん」と頷いた。



『おめでとう。プレゼント送っといたからね』


「………ありがとう。楽しみにしてる」



微妙にぎこちない空気のまま、私は電話を切った。



お母さんからの電話は、だいたいいつもこういう話だ。



帰って来なさい。


そうでないなら早く結婚しなさい。



私には頷けない話題ばかりで、どちらも嫌な気分のまま話を終えることになる。


それでも、電話をかけてきてくれるだけ、お母さんとの関係は良好だ。


お父さんとは絶縁状態だから。



お母さんはいつも、お父さんの目を盗んで電話をかけてくる。



私が公務員の採用を辞退したことを知った時、お父さんは見たことがないくらい激しく怒り、深く絶望した。


『こんな親不孝者はうちの娘じゃない』



それ以来、お母さんに対しても、私との接触をもつことを禁じた。


お父さんは田舎の古い家の出で、ひどく保守的で考えも古く、絵に描いたような亭主関白だ。


だから私は大学生の間、決してリヒトとの関係をお父さんに知られないよう、細心の注意を払っていた。


幸い、仕事で帰りがいつも遅かったから、私がリヒトの家に入り浸っていても、気づかれることはなかった。