『玲羅? 聞いてるの?』



お母さんの声で我に返り、私は「ごめん」と呟く。



「聞いてるよ。うん……結婚は、ちょっと、ないかな。そういう相手、いないから」



リヒトの顔が思い浮かぶ。


結婚だなんて、リヒトは欠片ほども考えていないだろう。


それに私自身も、リヒトと結婚なんて考えられない。



私はリヒトと一緒にいられさえすればいい。


週に一回でもいいから、リヒトに会って、リヒトの声を聞き、リヒトの顔を見られたら、それでもう、全てがどうでもいい。



お母さんがまたため息をついた。



『そう………まあそれは仕方がないけどね。無理やりするものでもないし。でも、そういう相手がいないなら、もうこっちに帰って来なさいよ。もう都会には満足したでしょ?』



お母さんは、私がただ東京に暮らしてみたかったという理由だけで上京したと思っている。


当然だ。私は何も告げずに出て来たのだから、そう考えるしかなかったのだろう。



でも、ごめん、お母さん。


何を言われても、私はもうそこには帰れない。


リヒトがいない場所では、リヒトから遠く離れた場所では、もう私は生きて行けないから。