リヒトは何も言わずに食べる。


おいしいとも、まずいとも言わない。


最近お気に入りの、イギリスのロックバンドのレコードをスピーカーから流して、その歌詞カードをぱらぱらめくりながら、無感情に淡々と箸を動かす。


リヒトの食べ方は、すごくきれいだ。

節だった長い指が器用に上品に動く。


リヒトの操る箸先につままれた食材は、その美しい形の唇へ、まるで供物のように捧げられる。


でも、リヒトの視線は、私の作った料理などには向かない。



リヒトは食べることに興味がない。

リヒトは私にも興味がない。


興味があるのは、音楽だけ。


音楽を聴き、音楽を奏でることだけ。



リヒトは私を愛さない。

他の女たちも愛さない。


リヒトが愛するのは、音楽とギターだけ。



リヒトの世界は、音楽を軸に回っている。


きっと、それ以外のものは全て、ぼんやりとしか見えていない。


気が向いたときにだけ、気まぐれに目を向けることはあっても、その心まで入り込むことはない。



そんなことは分かっていた。

7年も前から分かっていた。



―――それでも私は、リヒトに魅せられて、捉えられて、どうしようもないくらい夢中なのだ。