「―――結婚してください」



ルイが私の手を握った。


私の好きな優しい微笑みを浮かべながら。



それから、左手の薬指に指輪がはめられる。


私はぽかんとしながら、どこか他人事のようにそれを見ていた。



ルイがくすりと笑う。



「レイラ、びっくりしすぎ」


「だって………いきなりすぎ」


「そう? 俺的にはずっと考えてたんだけど。就職決まって修論書き上げて卒業きまったら、すぐプロポーズしようって」


「ええ………」


「べつに今すぐ結婚ってわけじゃなくてもいいけど、予約しとかなきゃ不安だから」


「予約って」



私は思わず噴き出した。



かなりびっくりしたけれど、不安もないわけじゃないけれど、なんだかどうでもよくなってくる。


ルイと一緒にいられるのなら、他のことはどうでもいい。



「ご予約、承りました」



私は笑いながらルイの手を握り返す。


ルイもくすくすと笑っていた。




―――新しい物語が始まる。


私には私の物語があるのだ。


これから私が紡いでいくのは、ルイと私の物語だ。




リヒトの物語とは、きっと、もう二度と重なることはないだろう。



リヒトが共に物語を紡ぐのは、いったいどんな登場人物なのかな。


決して私が知ることのない物語。


でも、その物語が、どうか、幸福なエンディングを迎えますように。



私は心の中で祈った。






*Fin.





スピンオフ作品

『いとしい傷痕』