「うん。あのときリヒトは、れい、って言ってたと思う。私のこと、そんなふうに呼んだことはなかったし………」



ルイがまだ納得できないように首を傾げる。



「途中で止めたんじゃなくて?」


「ううん、ちがうと思う」



私は静かに首を横に振った。



「だって、呼び方が………なんて言うかね、呼ぶときの声がちがった」


「声、聞こえたの?」


「聞こえなかったんだけど、わかったの。聞こえないけど、声音がちがうっていうのかな」



ルイがやっぱり不思議そうに眉根を寄せている。



当たり前だと思う。


私自身、うまく説明できない感覚だから。



それでも、たしかにあのときリヒトは、私を呼んでいたときとは全くちがう声色で、れい、と呟いたのだ。



リヒトが私を呼ぶと、レイラという名前がひどく美しい名前に聞こえたけれど、その声は無機質な、ひんやりとした硝子のようだった。


でも、あの声は―――れい、と呼んだ声は、とてもやわらかい響きだったと思う。


その名前を愛おしむような、温度のある優しい声。


ギターを奏でるように愛おしげに呼ばれたのは、私の隣でリヒトを見つめ続けていた、あの女の子だ。