「ありがとう。次がラストです」



ハマさんがぼそぼそとマイクに向かって言うと、トーマがスティックでカウントをとって、激しくドラムを鳴らした。


3か月前に発売されたメジャー2枚目のアルバムに入っていた曲で、かなり人気のある曲なので、わあっと歓声が上がる。



リヒトが歌いはじめた瞬間、それまでぴくりとも動かなかった隣の女の子が、突然肩を震わせたのが視界の端に見えた。


ちらりと視線を向けると、女の子は大きな瞳からぼろぼろと涙を流していた。


頬を伝う涙にライトが当たって、きらきらと輝いている。



見てはいけないものを見てしまった気がした。


私は慌てて前に向き直る。



でも、その曲の間じゅう、静かに涙を流しつづける女の子が気になって仕方がなかった。



どっと拍手喝采が起こったときに、曲が終わったことに気がついた。



メンバーたちが楽器を置いてステージからはけていく。


リヒトもギターをスタンドに立てかけ、シャツの袖で汗を拭いながら立ち去ろうとした。



でも、私たちの前を通りすぎようとした瞬間、リヒトの目が大きく見開かれた。


息を呑んだような表情で、目映いステージの上からこちらを見下ろしている。



リヒトのそんな顔は初めて見たので、私は唖然として見上げていた。