私たちは沈黙したまま、その時を迎えた。


会場が真っ暗になり、メンバーが一人ずつ現れて、そしてステージの中央にスポットライトが当たる。



目映い閃光の中心に、一人の男が姿を現した。


その瞬間、ライブハウスが揺れそうなほどの歓声があがる。



その中で私は、遠いな、と冷静に思った。


ステージが遠い。


2年前にDizzinessが演奏していたライブハウスでは、最前列にいれば手が届くほどにステージが近かった。


でも、今は、手を伸ばしても全然届かないくらい、遠い。


しかも、ステージと客席の間にはSPやカメラマンまでいる。


変わったんだな、と思った。



スポットライトと歓声を一身に浴びる男が、ギターを構える。




「―――リヒト」



自分が思わずその名を呼んでしまったのかと思った。



でも、違った。


その名前を愛おしげに囁いたのは、私の隣に佇む女の子だった。



整ったきれいな横顔の唇が微かに開き、その瞳が大きく見開かれている。


鋭く射抜くようにまっすぐに、リヒトを見つめる眼差し。



Dizzinessのライブの間じゅう、私が一番気にしていたのは、数年前あんなに強く恋い焦がれていたリヒトではなく、

私の隣に立ち尽くして微動だにせずステージを凝視していた、その小柄な女の子だった。