―――なんて呆気ないんだろう。


リヒトに心を奪われて、全てを捧げて、リヒトのためだけに生きてきた私の7年間。


その終焉が、こんなにも唐突に訪れるなんて。



本当に、これで終わりなんだろうか。


心の奥底からそんな思いが込み上げてくる。



でも、頭では分かっていた。


本当に終わりだ。


リヒトに抱きしめられた瞬間に、私にはそれが分かった。



今まで一度だって、あんなふうに抱かれたことはなかった。


あれは、リヒトなりの優しさ。


愚かな下僕に対する、最初で最後の、気まぐれな抱擁。



餞別のつもりだったのかもしれない。



『お前の存在自体が邪魔なんだよ』

『俺は満たされたくない』

『俺は孤独じゃないといけない』


リヒトの言葉を何度も反芻する。


孤独と欲望と不安定さの中でだけ生み出される、リヒトの美しい音楽。


リヒトが自分の気持ちをあんなふうに口に出したのも、初めてだった。


それもまた、私と会うのが最後だと決めていたからなんだ。



そうでなければ、リヒトは、他人に自分の考えを話したりしない。



『手に入れられないものを永遠に欲しつづけていなくちゃいけない』


そうか。

私は簡単に手に入るものだから、リヒトにとってはもう要らないんだ。