リヒトは何も言わなかった。


動く気配すらなかった。



私は後ろ手に玄関のドアを閉めて、足早に廊下を歩き、エレベーターに乗り込む。


その瞬間、腰が抜けたように立っていられなくなった。



壁に背をつけて、ずるずると崩れ落ちる。



涙はもう止まっていた。


ただ、視界は霞んだようにぼんやりと曇っている。



一階についてドアが開いたので、這うようにして外に出る。




深い藍色の空が広がった。


雪が降っている。


音もなくすうっと落ちてくる、花びらのように大きい牡丹雪。



それを見た途端、ふたたび涙が溢れてきた。


とめどなく流れ落ちてくる涙は、冷たい空気に触れて冷えきった頬に、妙に温かい。



私はよろめく足を必死に動かして歩いた。


一刻も早くここから離れないと、今すぐにでもリヒトのもとに駆け戻って、許しを乞いたくなってしまう。



なんとか駅の近くまでたどり着くと、急に足が動かなくなった。


私は立ち止まり、涙に濡れた顔を覆って座り込んだ。



あと数時間でクリスマスが終わる。

華やかな街を行く人々は、名残を惜しむようにはしゃいでいる。


その真ん中で、私は一人、闇のなかに沈んで、泣き続ける。


嗚咽が洩れるのをこらえられなかった。



見て見ぬ振りをしながら通りすぎていく人たちの気配を感じる。