再びギターを弾きはじめたリヒトの背中を見ながら、さっき脱ぎ捨てたばかりの服を身につけていく。


ベッドから降りてコートを羽織り、バッグを肩にかけた。



「………じゃあ、行くね。また明日」



いちおう声をかけてみる。


運が良ければリヒトの耳に声が届いて、何か言葉をかけてくれるかもしれない。



でも、リヒトは私に背を向けたまま、アンプから迸る音の渦の中で無心に弾きつづけていた。


私は細く息をもらして、玄関へと足を向ける。



廊下につながるドアを開けたとき、


「レイラ」


と声が聞こえた。



心が弾む。


振り向くと、リヒトが横顔で私を見ていた。



「なに? リヒト」



呼び止められただけで、私は情けないくらい舞い上がっていた。



「お前、今、明日来るって言った?」


「あー、うん」



先月からそういう話になっていたのだ。


するとリヒトが顔をしかめてこちらに顔を向けた。



「それ、なしにして。明日は女が来るから」



一瞬、頭が真っ白になった。


でも、かろうじて自分を取り戻す。



「………分かった。じゃ、また用事あるとき呼んで」



リヒトは「んー」とだけ答えて、またギターに視線を落とした。


私は黙って部屋を出た。