「リヒト! お願い、なんでもするから!

今までのままでいいの、これ以上はなにも望まないから!

リヒトの邪魔はしないから………!」



私は泣きじゃくりながらリヒトにすがりついた。


リヒトが眉をひそめて見下ろしてくる。


でも、振り払われないのを良いことに、私はさらに手に力をこめる。



―――オネガイ。

ステナイデ。

ナンデモスル。

ジャマハシナイ。



同じ言葉だけを、繰り返し、数えきれないほどに、

呪文のように、

泣きわめきながら唱えつづける。



リヒトに対して、こんなふうに感情をぶつけたのは、初めてだった。


私は今まで、リヒトに想いをぶつけたことなど一度もなかったのだ。



面倒がられたくなかったから。


うざい女だと思われたくなかったから。



リヒトに嫌われたくなかったから。



どんな仕打ちを受けても平然としている大人の女を演じていたから。


演じなければいけないと思っていたから。



そうやって従順にリヒトに尽くしていれば、決して見放されることも捨てられることもないと思っていた。


だから私は、リヒトがどこで何をしていようと耐えられた。


だから―――それなのに。



ねえ、リヒト。


どうして今さら、私を捨てようとするの?