「………捨てないで」



私はリヒトの両腕をつかんだ。


リヒトの眉がかすかに上がる。



「お願い、私を捨てないで!」



私は震える声で叫んだ。




「捨てないで! 捨てないで!

それだけは駄目!


他のことならなんでも………リヒトの言うことなら、なんでも聞く!

でも、それだけは駄目―――リヒトに捨てられたら、私もう、生きてる意味がない………!!」




無表情に見つめ返してくるリヒトの顔がうつる視界が、じわりと滲んだ。


涙があふれてきたのだと気づく。


それを拭うことさえ忘れたまま、私はリヒトに請い願う。



「お願い………リヒト………。

捨てないでよ………お願い………」



リヒトは何も言わない。



私の必死の命乞いは、なんの意味も成さずに、そのまま空気に溶けて消えていった。



私は絶望的な気分でリヒトを仰ぎ見る。



頬がひやりと冷たい。


触れてみると、次々に流れる涙に濡れていた。



「うるさいな………黙って帰れよ」



凍りつきそうなほどに冷たいその言葉を聞いた途端、頭の中で何かが弾けた気がした。


かっと血が昇ったように顔も頭も熱くて、もうなにも考えられない。



だから私は、感情の奔流に歯止めをきかすことができなくなってしまった。