リヒトがすっと立ち上がった。


なにも言えず、身じろぎもできずに座り込んでいる私を、なんの感情もない瞳で見下す。



「………話はこれだけだ。もう帰れ」



冷ややかに命じる声。


私は一度だけ、ゆっくりと首を横に振った。



「帰れ」


「………やだ」



すがるようにリヒトを見上げて呟くと、リヒトが微かに目を見開いた。



リヒトの言葉に逆らったのは、これが初めてだった。



「………帰れ」


「やだ」



ふるふると首を振ると、リヒトは小さく舌打ちをして、かがんで私の腕をつかんだ。


そのまま無理やり立ち上がらされる。



私は自分の手をつかむリヒトの左手に目を落とした。



ギターのネックをつかむときに比べて、

私を捕らえたこの手は、なんて冷たくて、かたくて、荒々しくて、無情なんだろう。


優しさのかけらもない。



私はリヒトの手を振り払った。


それから、その身体にすがりつく。



「なんで? なんで急にそんなこと言うの?

納得できない………どうして?」



必死に言葉を絞り出すと、リヒトは美しい眉をひそめた。



「何度も言わせるなよ………。

お前が要らなくなったからだって言ってるだろ」