その声音にいつもとは違う響きを感じて、私はどきりとする。



私を呼びつけるときのリヒトの声は、いつも王のように高慢で、冷徹。


それなのに、いま私を呼んだ声は、奇妙に穏やかで柔らかかった。



「………なんで?」



キッチンに佇んだまま呟くと、リヒトが振り向いて眉をあげた。



「………話がある」



どくん、と心臓が大きく跳ねた。


それから、ばくばくと暴れる。



吐きそうだ、と思いながら、私はリヒトのもとへ向かった。



リヒトが床に腰を落とす。


ちらりと私を見て、座れ、というように顎をあげた。


私はリヒトの左隣に腰をおろす。



リヒトはスタンドに立ててあったマーティンのアコースティックギターをとり、ピックを使わずに指先で奏ではじめた。


私は、目の前で優美に形を変えていくリヒトの左手の指を眺める。



6本の弦は、リヒトの愛撫を受けて歓喜に震えている。


ギターも女なんだ、と私はふいに思った。


リヒトに触れられるのを心待ちにしている、無数の女たちの一人なんだ。



そして、リヒトはこんなにも優しく愛おしげにギターに触れる。


ギターはリヒトに応えて、世にも美しい声で歌う。



だとしたら、生身の女が勝てるわけがない。


リヒトが愛する女は、ギターだけだ。