「スタジオの帰り?」



微妙にぎこちない空気を変えようと、私はリヒトに訊ねた。


リヒトが小さく頷く。



「レコーディング?」


「まあな」


「そう。おつかれさま」


「ああ」


「…………」


「…………」



すぐに会話が途切れてしまい、再び重々しい沈黙がおとずれる。


焦って話題を探すけれど、なかなか見つからない。



いつも通りでいい。

いつものように話せばいい。


だから、何か………。



―――いつもは、リヒトとどんな話をしていたっけ。



そこまで考えて、ふいに気づく。


私とリヒトはほとんど話などしてこなかったのだ。



二人で一緒にいるときも、リヒトのギターを聴いているか、抱き合っているか、そのどちらか。


私たちはそういう会い方しかしてこなかった。



もしかしたら、これまで7年間のリヒトとの会話を全部つなげても、

この半年でルイと話した量より少ないかもしれない。



それでもよかった。


リヒトと言葉を交わしたりしなくても、リヒトのそばにいられさえしたら、私はそれでよかったから―――。



「―――リヒトさん」



突然、ルイの声が沈黙をやぶった。


リヒトが眉をあげてルイを見る。



「俺、隠れてこそこそやるのとか性に合わないんで、正直に言いますけど」



どきりとした。


ルイは一体なにを言うつもりなんだろう。