「リヒト………リヒト」



気がつくと、私は震える声で、何度も何度も囁いていた。



聞こえるはずはない距離。


届かないとわかっている



それでも、私は囁いた。



たゆまずに流れる人波のなかでただ一人、ぴったりと動きを止めて歌を口ずさんでいる、その愛しい背中に。




リヒトに会うのは何日ぶりだろう?


しばらく電話をもらっていなかった。


最後に連絡をとったのは、私からリヒトに電話したあのとき。


あれ以来、リヒトからはなんの音沙汰もなかった。



それは珍しいことでもなかったけれど、あの日に見た光景が私の目に焼きついていて、

吐きたいくらいに苦しい思いをしながら、私は毎日を過ごしていたのだ。



その恋しい姿が、愛おしい姿が、すぐ近くにある。


リヒトの歌が聴こえる。



私は何もかも考えられなくなって、無意識に足を踏み出した。



それから、クリスマスの街の真ん中を駆け抜けて、リヒトのもとへ―――

向かおうとしたそのとき、私の世界はふいに現実に引き戻された。




「レイラさん」



ルイの声が聞こえたからだった。



ルイは、駆け出そうとする私の手首をつかみ、じっとこちらを見つめている。