そのとき、ある音が私の鼓膜に忍び込んできた。



消え入りそうな、それでいて強烈な存在感のある声。


その声で歌われる哀切なメロディー。



私はぱっと顔をあげた。


人混みに視線を走らせる。



煌々と光る街灯。

無数の人影。


きらびやかなイルミネーション。

その光の恩恵を受けられない影の暗さ。



視界をうめつくす光と色彩の中で、それでもその姿は、ひときわ強く輝き、鮮やかな光を放っている。



「―――リヒト」



私の唇から、震える白い息がもれた。


ルイが目を丸くして、それから私の視線を追って振り向く。



私とルイの視線は途中で一つになり、街中に佇むほっそりとした人影に注がれた。



――――リヒトだ。


向こうを向いているので顔は見えないけれど、私はその背中と立ち姿だけで、それがリヒトであることを確信できる。



リヒトはハードケースに入ったギターを背負い、まるで茫然としたように、街の景色を眺めていた。



声が聴こえる。


リヒトが歌っている声が。