「―――じゃあ、妥協します」



ルイが唐突に明るい口調で言った。


目をあげると、いつもの穏やかな微笑みが私を見つめていた。



「レイラさん、ちょっとこっち来て」


「え………」



ルイは手招きをして、人通りの少ない脇道へと私を導いた。



「心は、いりません………。代わりに」



ルイは小さく息を吸い、細く吐き出した。



「―――キスをください」


「えっ?」



思わず声をあげてしまった。


ルイが目尻をさげ、くくく、と笑う。



「ここでいいですから」



そう言って、立てた人差し指で自分の頬をちょんとつついている。



「………それくらいなら、いいでしょう?」



ルイは相変わらず笑っているけれど、その瞳は、懇願するように切ない色を浮かべていた。



「お願いです、レイラさん。たった一度でいいんです………」



私は何も言えずに、黙ってルイを見つめ返す。


戸惑いと緊張で胸がいっぱいになり、鼓動が高鳴るのを感じた。