Am、Em、G、D。



私が思いつきで適当に口に出したコードを、リヒトは順番に、丁寧に弾いていく。


ほっそりと長い左手の指が淀みなく動いて、六本の弦を、愛おしむように優しく押さえる。


右手のなめらかで優雅なストローク。



私は思わず見とれた。



そのうちリヒトは、リズムをつけて弾きはじめた。


何か声が聞こえる気がして、私は耳を澄ます。


リヒトが、ギターの奏でる音に合わせて、細く小さな声で、かすかにうなっていた。



そして、唐突に、歌い始めた。


はっきりとした旋律をもって。



―――音楽が生まれる瞬間を見たのは、初めてだった。



私は息をのんだ。


眩暈がした。



みんなが驚いたようにリヒトに視線を集めた。


リヒトは周囲の注目になど気を払うことなく、伸びやかに歌う。



少しハスキーで、甘く掠れる声。



リヒトが歌い終えたとき、一瞬の沈黙のあと、歓声と拍手が上がった。



すごい、やべえ、と誰もが興奮したように言った。



震える弦の余韻を味わうようにしばらくうつむいていたリヒトが、ゆっくりと顔を上げた。


リヒトは拍手喝采を送るみんなには目もくれず、息をのんで硬直したままリヒトを見つめていた私に視線を向けた。



そして、満足げに、ふわりと笑った。


私だけに向けられた、王の微笑。



その瞬間私は、自分がリヒトに囚われたことを悟った。