私の答えを聞いて、リヒトがふっと口許を歪めた。


笑っているのだと気づくのに、数秒かかった。

さっきまでの仏頂面からは、想像もつかなかったから。



リヒトはにやっと笑い、後ろに置いていたギターのケースを開けた。


そして、黒いギターを取り出す。


何事かと目を丸くしているみんなの視線に気づいているのかいないのか、リヒトはギターを抱え、私に目を向ける。



そのまま、Amを奏でた。



「次は? 次に好きなコードは?」



かすかに笑いをにじませた声に訊ねられて、私は慌てて考える。



「………じゃあ、Em」


「マイナーばっかりだな。お前、陰気なの? まあ、いいけど」



リヒトはふっと笑いながらそう言った。



「で? 次は?」


「え? まだ? ………じゃあ、G」



Gのコードを押さえるときの指の形が、私は好きだった。

リヒトの細く長い指がGを押さえるのを見たいとふいに思いついて、私はそう言ったのだ。



リヒトは「なるほど、そう来たか」と楽しそうに言って、滑らかにコードを変えた。


リヒトの指たちが複雑で美しい形をとる。



「じゃあ、次は? これで最後な」


「ええと、じゃあ、Dで」


「ふん、いいじゃん」



リヒトは頷いてDを鳴らした。