周囲の音が消えた。


寒さも感じない。


すれ違う人に肩をぶつけられても、感触がない。


迷惑そうに睨みつけられても、何も思わない。



数えきれないほどの人々がひしめき合う、華やかなイルミネーションが煌めくクリスマスの街。

その真ん中で、私は絶望的なほど空虚だった。




どれくらい経ったのだろう。


時間の感覚もなくなっていた。



帰ろう、と頭のどこかで誰かが言う。


明日も仕事がある。

いつまでもこんなところにいるわけにはいかない。


わかっているのに、身体が動かない。



帰るにはどうすればいいのか、突然わからなくなった。


そもそも、私の帰る場所はどこなのだろう?


私に帰る場所なんてあるのだろうか?



私は帰る場所を捨ててきた。


リヒトは私の帰る場所にはなってくれない。



私は―――。




「―――レイラさん」



ふいに目の前が暗くなった。



「レイラさん」



私の名を柔らかく呼ぶ声に、そろそろと顔を上げる。



「………ルイ?」



すぐ目の前にルイの顔があった。


上半身をかがめて、じっと私を見つめている。



大きな瞳の真ん中に、私の間抜けな顔が映っていた。