でも、次の瞬間、私の足はレンガで舗装された道に縫いとめられる。



―――リヒトの隣に女の子がいた。


柔らかそうに波うった茶色の髪を揺らしながらリヒトを見上げている、色白で小柄な可愛らしい女の子。


私とは全然ちがう。



リヒトはいつものように、すらりとした長身をかがめるような猫背で、裾の長いチェスターコートのポケットに両手を突っ込み、ゆらゆらと歩いている。


ときどき女の子のほうを見下ろし、かすかに笑みを浮かべたりしていた。



女の子がリヒトの腕に手をからめ、クリスマスのディスプレイで飾られたウィンドウを指差して何かを言うと、

リヒトは笑って、彼女の小さな頭をくしゃりと撫でた。



どくん、どくん、と耳のなかで鼓動の音がこだまする。



あんなリヒトは見たことがない。


私は、リヒトにあんなふうに優しく触れられたことがない。



突然、寒さを感じなくなった。


私は呆然と街の真ん中に佇む。



たくさんの人が目の前を過っていく。


それなのに、リヒトの姿はなぜか、私の視界からいつまでも消えてくれない。



私は携帯電話を取り出した。


震える指で、リヒトの番号を呼び出す。



通話ボタンを押して、電話を耳に押し当てる。



何度目かの呼び出し音のあと、リヒトが億劫そうに動くのが見えた。