ルイは「分かりました」と頷いた。



「じゃあ、また明日」


「うん、気をつけてね」


「レイラさんこそ」


「ありがと」



私は改札の前で足をとめた。


ルイが振り向いたので、軽く手を振り、先に行くように促す。



リヒトからの連絡が来ていないか、確かめるつもりだった。


もし来ていたら、行き先が変わる。



ルイはぺこりと頭を下げて、改札を抜けていった。



携帯電話を取り出す。


お母さんからの不在着信以外、何も通知はなかった。


知らず、ため息がもれる。



もう遅いので、お母さんには明日かけ直そう。



大人しく電車に乗ろうと一歩踏み出した、そのとき。



「………?」



視界の端に何かが映った。



仕事帰りのサラリーマンやOL。

買い物袋を抱えた主婦。

塾のカバンを背負った子どもたち。


どこか疲れた顔で、暗い海の底の街を漂うように歩いていく人びとの波。



その中に埋もれている―――でも私にだけは輝いて見える人影。



「………リヒト」



思わず声をあげてしまった。


白い息が目の前にふわりと広がる。



気がついたら足が動いていた。