「わたしは誰にでも社員の話をもちかけたりしないわよ。この一年半の働きぶりを見て、レイラだったら絶対にしっかりやってくれるって確信したから、声をかけたの」


「………ありがとうございます。でも、それは、なんて言うか……過大評価です」



ミサトさんはじっと私の顔を見つめている。



「でも、レイラ、この仕事好きでしょ?」


「はい」


「辞めようとは思ってないわよね?」


「思ってません」


「じゃあ、社員になったほうが、あなたにとっても良いでしょう? 給料はあがるし、福利厚生もつくし」



それはそうだと思うけれど、答えられない。



「………社員になりたくない理由が、なにかあるの?」



ミサトさんが窺うように訊ねてきた。


頷くべきかどうか悩んだそのとき、ポケットの中で携帯電話が震えた。


その音に気がついて、ミサトさんが「出てもいいわよ」と言ってくれる。



話の途中で電話をとるなんて失礼だと思ったけれど、時間的にリヒトかもしれない、と思ったので、

「失礼します」と言って携帯電話を取り出した。



どうしようもなく高鳴る胸を感じながら、画面表示を見る。



………違った。

リヒトじゃなかった。


お母さんからの電話。


きっと長くなるので、後からかけなおそう。