エプロンを外し、ロッカーにしまう。


ハンガーにかけてあったコートを羽織り、帰ろうとすると。



「あ、レイラ。ちょっと話あるから、残ってくれる?」



ミサトさんがそう言って、ちらりとルイを見た。


ルイは敏感にミサトさんの意図を察して、「じゃ、俺は先に失礼します」と頭を下げた。



「レイラ、座って」



ルイが通用口から出ていったのを確認すると、ミサトさんは椅子を引いてくれた。


私は頷いて腰かける。



「で、例の話だけど。考えてくれた?」


「ああ………」



私はうつむき、膝の上で手を握った。



例の話、というのは、社員登用試験を受けないか、という話のことだ。


先月末にミサトさんから話をもらって、そのときは『考えてみます』と答えていた。


本当に考えようと思っていたわけではない。

すぐに返事をすると感じが悪いかな、と思って、考えるふりをしただけだ。


私の中では、その話を聞いた瞬間に、答えが決まっていた。



「………せっかくいただいたお話ですけど………お断りさせてください」



ミサトさんが驚いたように目を見開いた。



「え? どうして?」


「………私には正社員なんて務まらないと思うので」


「そんなはずないじゃない」



ミサトさんが大きく首を横に振った。