「―――レイラ?」



薄い口唇から洩れた低い声が、私の名を呼んだ。


その瞬間、私は自分の名前がこんなにもきれいな響きを持つのだと、初めて知った。



「お前、レイラっていうの?」



うん、と頷くと、



「もしかして、クラプトン?」



と返ってきた。


私はまた頷く。


レイラという名前は、音楽好きの父が、エリック・クラプトンの〈Layla〉――『いとしのレイラ』という曲からとったものだった。


それを伝えると、冷たい美貌の男が、少しだけ表情を緩めた。



「俺は、利人」


「リヒト? ドイツ語で『光』だっけ」


「そ。ドイツ人のじいさんがつけた」



いい名前だね、とか、似合ってるね、とか、そんな上手な相づちが打てればよかったんだけど、

私は何も言葉が出なかった。


鮮烈な印象を与える目の前の男と、リヒトという響きと、光が、私の心を占めていたのだ。


まさに、リヒトは光だった。

光のように眩しくて、直視すると眩暈を起こしそうで、その視線を正面から受けることができなかった。