「実は、バイト始める前に一回だけ、客として来てみたことがあって」


「そうなの? なに、偵察?」



冗談ぽく聞き返してみると、ルイが「まあ、そうですね」と笑った。



「で、メニュー見てたら、なんかすごくいいなって」


「メニュー? でも、普通じゃない? めずらしいものとかはないし」


「そこがいいんですよ」



ルイはなぜか誇らしげに言った。



「最近のカフェって、なんだかよく分からない横文字のメニューが多いじゃないですか。ソルベージュとかフラペチーノとかスムージーとか。

ああいうのって、名前だけ見たら、若い女の人以外はだいたい、どんな飲み物なんだか分からないんですよね。

かっこいいカタカナの名前つけとけばおしゃれな店に見えるだろ、みたいな考えが透けて見えるっていうか」



私は思わず噴き出してしまった。



「ルイ、意外と毒舌」



するとルイも笑う。



「そうですよ。俺、けっこうひねくれてるんで。レイラさんの前では、嫌われたくないから、毒舌封印してるだけです」


「………べつにいいのに。ギャップがあっておもしろいよ」


「そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて、これからはちょくちょく出しちゃおうかな」



ルイは冗談っぽく言って、くすくす笑った。