「………レイラさんは、覚えてないでしょうけど」



ルイがふいに声音を変えて、柔らかい声で話しはじめる。



「俺がカナリアで働きだしたころ、包丁で指、切っちゃったことあるんです」



覚えている。

でも、なんとなく、そう答えてはいけない気がして、私はあいまいな頷き方をした。



「そのとき、レイラさんが何も言わずに自分のバッグから絆創膏をもってきてくれて………それで、左手じゃやりにくいでしょって言って、貼ってくれて」


「………うん」


「なんて優しくて、すてきな人なんだろうって思いました」



私は目を背ける。


しばらく考えてから口を開いた。



「………そんなの、普通のことだよ。私じゃなくてもきっとそうするし、私は多分、相手がルイじゃなくてもそうしたよ。同僚が怪我したら、そうするのが当然でしょ?」



冷たい言い方だとは思うけど、そう答えるしかない。



「でも」



視界の端で、ルイが首を横に振った。



「レイラさんがたとえ誰にでも優しくしてあげるんだとしても、他の誰かも同じようにしてくれるかもしれなくても。

あの瞬間に、レイラさんは、俺にとって特別な存在になったんです」



―――苦しい。そんなことを言われても、困る。