「―――レイラさん!?」



ルイの声が、まるで靄の向こうから呼んでいるかのように、奇妙にぼやけて聞こえる。


大丈夫、と答えようとしたのに、声が出なかった。

口を開いたら吐く、と思った。


目を開けていられなくなって、私はカウンターに背中をもたれさせる。

そのまま、ずるずると身体が斜めになった。



「レイラさん! どうしたんですか」



ルイが駆け寄ってくる足音がする。

手を伸ばしてくる気配がしたけど、気持ちが悪すぎて、触れられたら吐いてしまいそうだった。



「さわらないで………」



なんとか薄目を開けて、そう言う。


ルイが目を見開いて、伸ばしかけていた手を引っ込めた。

それから唇を噛む。


ルイの手が、ためらうように宙をさまよっていた。



「………ごめんなさい。それでも、触ります」



ルイは意を決したように囁いた。


大きな手が私の肩をつかみ、身体を起こす。

気がついたときには、私はルイに抱きかかえられていた。



「スタッフルームに行きましょう。歩けますか?」



抱き起こされて、私は頷く。


でも、床を踏んだ足は真綿の上を歩いているようで、すぐによろめいてしまった。



「レイラさん、ごめんね」



ルイは小さく言って、私の膝の裏に片腕を回し、もう片方の腕で背中を支え、あっという間に抱えあげた。