「……好きな子と話すためよ」
ぽつり、と。
赤いリップが似合う唇から言葉が落ちる。
「……へ?」
その予想外の答えに、素っ頓狂な声が出た。そんな私を見て、紫苑先輩は困ったように笑う。
「そうねえ、どこから話せばいいかしら」
「え、えっと、ちょっと待ってください。紫苑先輩の好きな子、って」
「さっき会ったでしょ?」
「桜さん!?」
大きい声出るわね、と笑いながら紫苑先輩は肯定を示す。思いがけない恋バナにテンションが上がってしまった私は、口元を押さえて、さっきまでいたマンションの方向を見た。
「今日葵ちゃんに来てもらったのはね、葵ちゃんが女の子だからなの」
歩きながら話しましょうか、と促されて駅のほうへと足を進める。私に合わせてゆっくり歩いてくれる紫苑先輩は、そのハスキーな声で言葉を紡ぐ。