「何。俺とは二度と口ききたくないんじゃないの」
相変わらずワントーンで、感情が見えてこない彼の声。
「そうだけど、昨日のこと聞いちゃったから」
椿くんが目を見開いて、あたしに視線を戻してきた。それから、ため息をひとつ。
「だから?」
「何でそんな嘘ついたの。女子なんて、椿くんのことデリカシーがないって言ってるんだよ。そんなこと言われてまで何で……」
あー、もう。あたしってば。
理由がどうこうじゃなくて、そんなことはどうでもよくて。
何であたしを庇ってくれたのか確かに気にはなるけど、単なる気まぐれかもしれないし、それがどんな理由であろうと助かったことには変わりないから、お礼は言わなきゃいけない。
ただ、ありがとうとごめんなさいを言えればそれでいいのに。
「別に理由なんて特にないよ」
ずっと黙っていた椿くんが、静かに口を開いた。