あたしは、椿くんが登校してくるのをひたすら待った。
“ありがとう”と、それから“いきなり叩いてごめんなさい”を言うために。
――ガラッ。
「はよー」
あくびをして、だるそうに椿くんが教室に入ってきた。
どかっと豪快にあたしの隣の席に座ると、男子が椿くんのところに駆け寄り、がしっと肩を組んで茶化す。
「お前~、ちゃんと春風さんに謝っとけよ?」
その言葉で、やっぱり本当にスミレが言っていた通りなのだと確信した。
何で……あたしなんかのために?
だって、椿くんはあたしのことが嫌いだったんでしょ?
あんなふうに、友達に茶化されてまであたしのことを庇う必要なんてないのに……。
「……椿くん」
あたしが小さな声で名前を呼ぶと、椿くんはちらりとあたしを見やると、またすぐに視線を逸らす。