戸惑うあたしに構うことなく、スミレは顔を真っ赤にしたまま怒りをあらわにし、芹香は腕を組んで呆れたように首を横に振る。


「ほんっと、男子ってどうしてそう、デリカシーがないのかねぇ。虫がいたからって親切心なら何でも許されると思ってんのかしら」


「そ、そうだよ!そんなことされたら、なずなちゃんが怒って教室飛び出しちゃうのも無理ないよね!私だって恥ずかしくて戻ってこれないもん!」


……違う。


あたしが怒ったのは、椿くんの頬を叩いたのは“可哀想”だと、現実を否応なしに突きつけられたからであって。


そんなことをされてしまったのは、言ってしまえばあたしの自業自得なんだ。
全部、子供みたいにトラウマに怯える自分のせいなんだ。


違うのに……それなのに……。


ガラリとドアを開けて、立ち往生していた教室の中に入ると、案の定クラスの皆も、あんな騒ぎを起こしたあたしに対して驚くほど普通で。


それは、椿くんがあえて嘘をついてくれたから。