「そっか。違うのか、ごめん」


次の授業の教科書を用意しながら、椿くんが口を開く。


「別にいいよ」


あたしも、つられるように授業の準備をしながら淡々と答える。


すると、隣の椿くんの手がぴたりと止まり、それに気づいて顔を向ければ、椿くんの目が真っ直ぐにあたしを見据えていた。


そして、言った。耳を疑うような言葉を。



「可哀想な人だね、春風さんって」



――パンッ!


気づけばあたしは、右の手のひらで椿くんの頬をとらえていた。


考えるより先に、手が出てしまっていた。


だって、だって。


“可哀想”って、何よそれ。


立ち上がって、椿くんを叩いたあたしを見て、周りがざわざわと騒ぎ出す。


それでも構わないぐらい、あたしは頭に血がのぼっていた。


「可哀想なんてっ……そんなこと……何も知らないあんたに言われたくない……!」