彩芽?まさか、何でこんなところに?
いや、人違いかもしれない。
でも、一度知り合いと同じ名前を聞いてしまうと、気になる一方でそわそわしてくる。
あたしは、あたしの知る“彩芽”なのか確かめたくて、思わず話し声が聞こえてきたほうへ、忍び足で近づいていった。
どんどん大きくなっていく話し声。
近づくにつれ、その会話はあまり楽しそうなものではないことに気がついた。
「彩芽、本当に私たちのこと、あいつにチクってないでしょうねー?」
「し、知らないよ……。何のこと……蘭ちゃん……」
話をしていたのは、同い年ぐらいの女子生徒が数人。あたしとは違う学校の人達。
そう、彩芽と同じ学校の人達だ。
話をしていたのは、思っていた通り彩芽と、そして久しぶりに見る蘭。彼女の後ろには取り巻きのような女子が三、四人控えていた。
中学の時のことが、当然のように脳裏によぎる。だけど、あたしの心に今までみたいな苦しさは、不思議なことにさほどない。
あたしにトラウマを植え付けた元凶が目の前に揃っているというのに。
もしかしたら、今はスミレと芹香という、昔思い描いていたような、信頼できる大切な“友達”がいるからだろうか。