何だ……よかった。
椿くんがあんなことを言うから、いつの間にか尋常ではないぐらいの冷や汗をかいていた。
それをぬぐい、あたしは安堵の息をついて席に座った。
そのあとすぐに先生が入ってきて、授業が始まる。
ちなみに、椿くんが戻ってきたのは始業から5分ほど経ったあとで、「どこまで忘れ物を取りに行っていたんだ」と、こってりしぼられていた。
椿くんが、自分の席に向かう途中であたしのほうを見たような気がしたので、あたしはさっきやられたみたいに嘲笑っておいてあげた。
夢と現実の狭間を行ったり来たりしているうちに、授業は終わった。
眠い目をこすり、号令を済ませ、スミレと一緒に教室へ戻ろうと彼女のもとへ向かう。
「スミ……」
「スミレちゃん」
あたしよりも先に、スミレの名前を呼んだ人が他にもいて、あたしの声はそれにかき消されてしまった。