「何してるの」
教室に入ってきた椿くんが、眉をひそめてあたしに近づいてくる。
あたしはとっさに、エアメールを自分の机の中に隠した。
「また勝手に、人のバッグ漁ってたの?」
「いや、違くて、落として、それで……」
椿くんはあたしの様子を不審に思いながらも、黙って席に座る。
「また落としたんだ。春風さんって意外とドジ?」
「そ、そっちがチャック開けっ放しなのが悪いんでしょっ」
あたしは、エアメール以外の床に散らばったものを拾い上げて椿くんのバッグに詰め込み、本人の手に返す。
椿くんは、中身がひとつ足りないことなんて気づくことなく、自分の机の横にバッグをかけた。
朝のホームルームまではまだ時間があるから、と椿くんは机に突っ伏してそのまま居眠り。
あたしは一度安堵の息をついて、机の中に手をいれる。
カサリと触れたのは、“山茶花雪”からのエアメール。見たところ開封はされていない。
たぶん、椿くんのことだから読みたくはないけど、でも捨てられもしなくてずっと持っていたんだと思う。