「なずなちゃん!」


久しぶりに呼ばれた名前。


どうしてここに、とか。こんな時間に、とか。
訊かなきゃいけないことはたくさんあるはずなのに、全部それが喉の奥に詰まってしまって、代わりに涙ばかり溢れ出た。


そんなあたしを見て、スミレも目尻にひかるものを浮かばせる。
でも、それが落ちてこないようにグイッと拭い、近所迷惑にならないように抑えた声で確かにこう言った。



「この前はひどいことを言ってごめんなさい……!

お誕生日おめでとう、なずなちゃん!」



耳に届いたその言葉で、もう前が見えなくなってしまった。



「スミレ……ごめんなさい、スミレ……!」



大きな声で叫んだあたし。
スミレが周りを気にして、慌ててあたしに「しーっ」と口元に人差し指を当てる。


だけど、そんなこと構わない。


だって、あたしはすっかり忘れていたのに、スミレはちゃんとあたしの誕生日を覚えてくれていた。
喧嘩していたのに、わざわざ家まで来てくれた。


そうまでしてくれたのに、あたしは黙っているわけにはいかない。