あたし達以外誰もいない教室に、椿くんの凛とした声が響く。
その声が紡いだ言葉を理解すると、目の前が明るくなるような錯覚を覚えた。
だって、それはまぎれもなく椿くんの第一歩であって。あたしはずっと、椿くんのその言葉を待っていたような気がする。
「ほんとに……?」
「うん。やっぱり俺はサッカーが好きだから」
「そうだよね……!よかった、本当に……」
あたしと同じように過去の出来事が原因で、サッカーを辞めてしまっていた椿くん。
でも、授業でやってる姿とか、サッカー部の練習を見てる横顔とか、サッカーから完全に離れることなんてできるようには見えなかった。
当然何年もやっていなかったからブランクだってある。決意することは大変だったかもしれない。
それでも、椿くんの親友との唯一の繋がりでもあったサッカーをまた始めるということが、あたしはすごく嬉しかった。
「頑張ってね、椿くん!」
あたしが笑顔でそう言うと、椿くんは照れくさそうに頭をかいて。
「俺がそう思えるようになったのは、春風さんのおかげなんだよ」
はにかみながら、そう言った。