そうだった。すっかり忘れていたけど、あたしは芹香の悪口をスミレに吹き込んでやろうとしていたんだった。


「確か……芹香ちゃんの話してた時だったよね?」


「えっと……」


首を傾げるスミレに、昨日言おうとしていたことをついポロッと口にしてしまいそうになったけど、既のところで留まった。


『ダメだよ、春風さん。“そっち”に行っちゃ』


昨日、椿くんにそんなふうに諭されたことを思い出したから。


「あ、ごめん。何言おうとしてたのか忘れちゃった!でもたいしたことじゃないと思うから大丈夫だよ」


「そう……?うん、そっか。わかった」


スミレは少し不思議そうにしていながらも、にこっと笑ってそれ以上は追求しないでくれた。


ホッと安堵の息をついて1時間目の授業の準備を始めると、スミレが突然思い出したように両手を合わせて楽しそうな声をあげた。