椿くんのこんな笑顔も、今まで全く見たことがなかった。


でも、きっと、本当の椿くんはこんなふうに優しく笑う人なんだ。


クラスメイトには見せてなかった笑顔を、今あたしにだけ見せてくれている。


そのことがすごく嬉しくて、そう考えると少し顔が熱くなった。


椿くんもあたしと同じで、あたしに過去を話したことで多少なりとも振っきれて、あの写真みたいにまた笑えるようになってくれたのかな。



そうだったらいいな。そうだったら嬉しいな。



電車が発車し、ホームに残ってあたしを見送る椿くんがどんどん遠くなっていく。


いつも少し目にかかっている前髪が風になびいて、彼の笑った顔が遠くてもよく見える。


電車が完全に駅を出ると、あたしは座席に座って目を閉じ、そんな椿くんの姿をまぶたの裏に焼き付けた。


何故だかいつもより少しだけ早い心臓の鼓動。でも、心地良いものだった。