大好きな人と夢を追いかけるはずだった椿くん。


でも、他の人が知ってた事実を自分だけ知らされていなかった挙句、嘘をつかれて約束を破られた。


きっと、まだ小学生だった椿くんには、悲しくて苦しくて、どうしようもなかったと思う。


そして、その時の傷は、まだ椿くんの心に深く残っている……。


「もしかしたら、俺なんかより春風さんのほうがもっとつらい思いをしてたのかもしれないけど、人間は裏切るんだっていう春風さんの言葉が突き刺さったんだ」


外を眺めながら話していた椿くんは、教室の窓から差し込む夕陽を受けてオレンジ色になった顔を、あたしのほうに向けた。


「だから、春風さんのことがほっとけなくなった」


その言葉を聞いた瞬間、引っ込んでいたはずの涙がまたこぼれでそうになる。


『そばにいてくれる友達がいるのに、そいつを 大切にしないところ、本当に嫌いだよ』


いつか、椿くんに言われた言葉。
あの時は、ただ責められているようにしか感じなくて、だから「何も知らないくせに」って憤(いきどお)ってしまった。