山茶花……。
珍しい名前だけど、あたしはその名前を聞いた瞬間、椿くんとぴったりだと思った。
椿くんは、その山茶花くんのことを思い出しているのか、少しだけ表情が柔らかくなった。
「俺もあいつも、もともとサッカーが好きで、地区のサッカーチームに入って毎日一緒に練習してた。学年が上がって違うクラスになってもずっと。休日も、サッカーチームの練習がない日でも、お互いの顔を見飽きるぐらい一緒に遊んでた」
無邪気な小学生の頃の2人。
あたしはその頃の椿くんを知らないけど、少なからず今よりはもっと表情豊かだったんだろうなと思う。
だって、写真では今まで見たこともないような笑顔だし、今だって思い出すだけで楽しそうにしている。
「小学校を卒業しても、中学でも高校でもずっと一緒にサッカーをしようって。将来は絶対プロのサッカー選手になって、チームのダブルエースになろうって。そう話してた。けど……」
「“けど”……?」
それまで楽しそうだった椿くんの顔が、目を伏せた。
楽しい思い出から、悲しい過去を思い出す準備のように。
「あいつは、俺の前から突然、何も言わずにいなくなったんだ……」