しばらく目を丸くしていた椿くんは、またいつもの無表情に戻って、あたしに襟を掴まれたまま答える。
「だって春風さん、今これから最低なことしようとしてたでしょ?偶然通りかかって、悪いけど全部聞いちゃったんだ」
やっぱりそうだったんだ。
椿くんが、びっくりするほどのタイミングで現れたのは、あたしを邪魔する為。
予想していた通りだったのに、ありがとうなんてお礼を言ってしまった自分にも苛立つ。
でも、どうしていつも椿くんは、そんなにあたしの邪魔をしてくるの?
「だからって、そんなの椿くんに関係ないでしょ!! あたしがスミレに何を言おうがどうしようが、椿くんに迷惑なんてかけてないじゃん!!」
「関係なくないよ」
「関係ないわよ!! だって、椿くんはあたしのことが嫌いなんでしょ?だったら、あたしがどれだけ最低なことをしようが、嫌いなんだからほっとけばいいじゃん!! それなのに何で!? それともあたしのことが嫌いだから、こんなことしてくるの!?」
「春風さんっ……」
何かを言おうとしている椿くんを遮って、あたしは叫ぶ。
「そんなに……そんなに、あたしのことが嫌いなの……!?」
『彩芽ちゃん、前に言ってたよね?
なずなちゃんのこと、嫌いだって』
『……うん。嫌い』
叫びながら、涙がこぼれ落ちた。