「はーるかーぜさーん」



ガシッと後ろから両肩を掴まれ、妙に間延びした声で名前を呼ばれる。


この抑揚のない、ザ・ワントーンな声は、あたしにとっては嫌と言うほど耳慣れたものだった。


勢い良く振り返ると、そこにいたのはやっぱり、椿くんだった。


きっと、また邪魔しにきたんだ。
“友達を大切にしろ”とでも言って、わざわざ説教しに。


「椿くん!どうしたの?」


無言で彼を睨みあげるだけのあたしに代わって、スミレが椿くんに声をかける。


「やっほー、染色さん。いや、ちょっと春風さんを探しててね」


片手をあげてスミレに挨拶をすると、椿くんはあたしの頭にボスッと手を置いて、「先生に呼ばれてたよ」と一言。


先生があたしに?
全く身に覚えのないあたしは、目を丸くするばかり。


てっきり椿くんがただ邪魔しに来ただけだと思っていたあたしは、とりあえずスミレに先に帰ってもらうことにした。