足を止めると、椿くんはあたしを冷えた目で見据えて、抑揚のない声で言った。
「春風なずな(はるかぜ なずな)。
あんた、“友達”いないでしょ」
は……?
思いもしなかった言葉に驚いて、あの重い屋上の扉に頭を打ち付けてしまうかと思った。
動きが止まる。でも、それとは反対に、心臓はうるさく鼓動を打つ。
「と、友達なら、い、いる……けど」
スミレは、あたしの“友達”だ。
それは間違いない、のに。
どうして、言い返した声はこんなにも震えているんだろう。
「本当に?」
椿くんの、あたしの心を探るような、それでいて冷たい目が、怖く見えて仕方がなくて。
「あ、当たり前でしょ!」
いたたまれなくなったあたしは、それだけ言い捨てて屋上を飛び出した。
本当だもん。
あたしとスミレは、本当に“友達”だもん。
それなのに、どうしてあんなことを言うの?