「あれ……?椿くん?」
ボールを追いかけ、奪い合う部員たち。
コートの外では、そんな彼らを目で追いかける椿くんの姿があった。
どうしたんだろう。この前は、あんなに悲しそうな顔でサッカーはやらないと言っていたのに。
やっぱり、好きなのかなぁ、サッカー。
どうしてやらないなんて言ったのかはわからないけど、離れられないんじゃないかな……。
椿くんの横顔が、相変わらず寂しそうで切なそうな悲しい表情だから、ついぼんやりとだけど眺めてしまう。
「そんな顔するぐらいなら、やればいいのに……」
聞こえるはずもないのに、そんなことをつぶやいていた。
って、あたしは椿くんに嫌われてるのに何を考えているんだ。椿くんがサッカーをやるやらないなんて、あたしには関係ないはずなのに……。
「あははっ!スミレって、ほんと面白いよね!」
芹香の大きな笑い声で、あたしははっと我に返った。
慌てて窓から手元に視線を戻すと、課題のプリントはいまだ真っ白のまま。
やばい、こんなことしてる場合じゃなかった。